つらつらとMAZDA

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ロードスターの新しい車両姿勢安定化制御「Kinematic Posture Control(KPC)」の開発担当者が開発のいきさつや今後の展開について語る。

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(画像 MAZDA)

 

ロードスター2021年商品改良で採用された新しい車両姿勢安定化技術「Kinematic Posture Control(KPC)」

この制御の開発担当者さんが誕生のいきさつや今後の展開についてメディアの取材で答えています。

 

「Kinematic Posture Control(KPC)」ロードスター2021年商品改良モデルで初登場した車両姿勢安定化制御。

すでに様々なメディアで試乗インプレッションなども公開されていますが、開発担当者さんが誕生のいきさつや今後の展開について取材を受けている記事があったので紹介したいと思います。

 

今回取り上げるのは「motor-fan」の記事。

KPCの開発を担当された梅津大輔さんが取材に答えています。

「Gベクタリングコントロール(GVC)」等マツダの操安全体を担当されてる方なのでマツダファンの間ではすっかりお馴染みの方ですね♪

かなりマニアックな内容も話されていますが、その中か気になった内容をピックアップして紹介したいと思います。

 

Q1:KPCはND型ロードスターを開発する時点で、いずれ投入しようという計画があった技術なのか?

計画はNDロードスターが開発された後です。

私はNC型の最終モデル(おそらく2012年に発表された"NC3"の事)からロードスターを担当していますが、2015年にND型ロードスターを発売したのと同時進行でFF車用のGVC(G-ベクタリングコントロール)を開発しており、2016年に発表しました。

1.5Lのロードスターの開発が終わった後は、アバルト124スパイダーの開発を担当しており、それが落ち着いたのは2016年末から2017年くらいでした。

そこからKPCの開発をスタートしています。

 

Q2:KPCを開発したいきさつについて。

ロードスターは従来より、低速域でのヒラヒラ感や軽快感を大事にしており、それによってスポーツカーとして独自のポジションを築いてきました。

これはND開発時にも大事にした所ですが、一方で、低速域でのヒラヒラ感を作ろうとすると高速域・高G領域ではどうしても頼りない、フワフワした感覚が出るので、その二律背反をどうするかがロードスターが初代より抱えている長年の課題でした。

それを何とかしたいという想いがあり、ND開発時点ではリヤサスペンションのアンチリフトジオメトリーを、NC型よりも大きく強めています。

結果としてNDロードスターは、ショートホイールベースで小さいクルマながらも制動姿勢は全体に沈み込むような、安定した姿勢ができていると思っています。

ただ一方で、やはり高G領域での浮き上がりやそのロールにともなう浮き上がり(ジャッキアップ)を特徴として持っていたので、これを何とか重量を増やさず、デバイスを付け加えずに改善しようと思った時に何ができるかを考えてきました。

 

Q3:ハードウェアは、ESC(横滑り防止装置)も商品改良前と変わっていない?

990S以外のグレードのハードウェアは何も変わっていません。

※990Sのみサスペンション・パワーステアリング・エンジン制御ユニットが専用セッティングになっています。

 

Q4:KPCで求められる微少なコントロールは元々搭載されているESCの性能で簡単にできるものなのでしょうか?

できません。

基本的にESCは5~10MPaの領域で設計されていますが、ロードスターに採用しているユニット自体が高性能なので分解能は元々高かったものの、サプライヤーさんはKPCで必要となる0.3MPa以下の液圧を使用領域として想定していませんでした。

しかし、我々が検証するなかで、このユニットならばコントロールできる、我々が制御を上手く作ればできることは確認できていたので、逆にマツダ側がサプライヤーさんへ提示した形で開発を進めた。

ESCでこれほど微少な液圧をコントロールしている例は他にはないと思います。

安いESCユニットではできないと思いますね。

 

Q5:ロードスターに採用されているESCユニットのサプライヤーは?

ボッシュBOSCH)の「ESP9」というユニットです。

 

Q6:まもなく導入開始されるラージ商品群とKPCの関係性について。

これから発売するラージプラットフォームのクルマは、KPCありきでサスペンションジオメトリーを設計しています。

我々はサスペンションジオメトリーとの組み合わせに関しいろいろな手段を持っていますので、ラージプラットフォームでも最大限活かすように、SUVですがアンチリフト角をしっかり付けたジオメトリーにしています。

 

Q7:KPCはESCをオフにすると一緒に切れる仕組みになっていますが、分けることはできないのでしょうか?

できるんですが、スイッチを追加するのは非常にコストがかかるので「そのために2万円払いますか?」ということになってきますね。

GVCの際にも同じ議論がありましたが、GVCはオフにする必要がないのでそうしませんでした。

KPCの場合、ロードスターはモディファイされるクルマなので、車高を下げてもブレーキパッドを変えてもLSDをもっと強いものにしても、KPCは車輪速しかセンシングしていませんので、全部自然に適合するんですよ。

ニュルブルクリンクで私自身が300ラップ以上して、まったく問題ないことを確認しています。

しかし、ジムカーナでサイドターン用にリヤの制動力が強いパッドを入れ、LSDも強く効かせていると、KPCが若干ブレーキを引きずって若干タイムロスになるケースがあります。

フィーリング上はまったく問題ないんですが、0.1秒を争うジムカーナ競技の場合はない方が速いケースがあるということも考えて、オフできるようにしました。

ですが、おっしゃることはよくわかりますので、将来的にお客様にコストをかけないような形で、KPCとESCを独立した形でオンオフできるようになれば、そうしたいと思っています。

 

Q8:既存車に向けたアップデートサービスの可能性について。

SKYACTIV-Xなどの「MAZDA SPIRIT UPGRADE」と同じで、ESCも認証部品なので、サービスキャンペーンとして行なうことしか国土交通省が基本的には認めていないんです。

プログラムの書き換えは技術的には可能ですが行政上の問題ですね。

現実的にはESCユニットの部品ごと交換するしかないと思いますが、ESCユニットは車両側からの指示を受け付けて動くだけなので、それだけでは実現できません。

KPCのコントローラーが入ってる「PCM(パワートレインコントロールモジュール)」がESCに指示を出しているので両方のユニットを換えなければなりません。

PCMは「MAZDA SPIRIT UPGRADE」と同様に書き換えで対応可能だが、ESCはそれ自体が認可部品なのでユニットごとの交換が必要。

ESCユニット自体の部品代は8万円くらいですが、工賃はブレーキ全部が対象になるので、どれだけ安くても10万円程度にはなりますね。

これは本当に行政の話なので、実現できるかは皆さんの声次第です。

 

リンク先に載っている中で特に気になった内容は以上となります。

かなり専門的な内容まで触れられている記事ですが、特に多くの人が気になっている内容は「既存車へのアップデートサービス(MAZDA SPIRIT UPGRADE)」の行方でしょうか・・・?

昨年末にも検討はされているという情報を取り上げましたが、現状の法規内で実現するにはPCMの書き替えに加えてESCユニット自体を交換する必要が出てくる事に加えて"安くても10万程度"という価格が課題のようです。

10万程度だと走りに関係するアフターパーツ購入という選択肢も視野に入ってくるので梅津さんが話されている通り、KPCのアップデートサービス実現はユーザーからの声次第なのでしょうね・・・。

 

すでに2021年商品改良モデルの納車も本格化しているのでこれからどのような反響や声が出てくるのか気になるところです。